オガサワラヒメミズナギドリ(学名:Puffinus bryani)とは、ミズナギドリ目ミズナギドリ科に属する鳥類である。学名はハワイのホノルルにあるバーニス・P・ビショップ博物館の元管理責任者で、1920年代から1950年代にかけてハワイの生物の調査研究を行ったエドウィン・ホレス・ブライアン・ジュニアの名前に因んでいる。発見当初日本語では「ブライアンズ・シアウォーター」という英名のカナ表記で呼称されていたが、ミッドウェー環礁に続き小笠原諸島でも発見されたことから、和名ではオガサワラヒメミズナギドリと呼ばれるようになった。
発見
1963年、ハワイ諸島北西にあるミッドウェー環礁のサンド島にあったシロハラミズナギドリの巣の中で、ミズナギドリ科とおぼしきオスの小さな鳥が発見された。発見当初、この個体は主に亜南極の海域に生息するヒメミズナギドリ(英語版)と考えられていた。しかし鳥類学者のピーター・パイルがワシントンD.C.にあるアメリカ国立自然史博物館(USNM)に保管されていた標本を再度調査したところ、ヒメミズナギドリにしては尾が黒くて長い上、体が小さすぎることが判明、スミソニアン保全生物学協会(英語版)(SCBI)のアンドリーナ・ウェルチとロブ・フライシャーがDNA型鑑定を行った結果、この種はおよそ200万年前に他のミズナギドリ科の鳥類から種分化した種で、ケアプベルデヒメミズナギドリに近い新種の鳥類であったことがわかり、2011年に新種として認定された。鳥類の新種が発見される場合、多くは南米や東南アジアの熱帯雨林で発見されることが多く、このようにアメリカ合衆国で鳥類の新種が発見されることは稀である。
1997年以降、小笠原諸島の父島、母島で各1個体、2つの無人島で計4個体、合計6個体の小型のミズナギドリが発見された。このうち2005年に父島で発見された個体のみが生存したまま捕獲され小笠原自然文化研究所で保護されたが、後に死亡した。捕獲当時この個体はヒメミズナギドリである可能性が高いと目されていたものの、青い足、目の上までの白さ、寝るときに足を羽毛の中にしまい込むなど、小笠原諸島に生息するミズナギドリとは異なる特徴が確認されたため、しばらく種の特定ができずにいた。発見された6個体は標本にされDNA型鑑定による種の確認が行われた。その結果、この6個体全てのDNA型がミッドウェー諸島で発見された個体と一致することが2012年に分かった。小笠原でオガサワラヒメミズナギドリが発見されたのはこれまで12月から5月の間であったが、小笠原諸島周辺海域は冬の間荒れることが多く研究者の渡航が困難であるため、このことにより発見が遅れた可能性がある。
特徴
確認されているミズナギドリ属の中では最も体が小さい。尾は近縁種より長く全体的に黒味が強い。背の部分がより黒く、羽の方に行くにしたがって茶色がかっている。くちばしは青がかった灰色をしていて、足は青色で、腹部は白色である。頭部は目の部分を境に上部が黒く、下部は白い。
予想される分布域
ミズナギドリ科を含めて一般的に海鳥は、離島にある巣に夜だけ戻るという生活をする種が多いが、オガサワラヒメミズナギドリの巣が主にどこにあるのかはわかっていない。種や個体によっては新たな餌場を求めて元あった巣から遠く離れた場所に新たな巣を作ることもしばしばあり、ハワイから遠く離れた太平洋上のどこかの島で巣を作っている可能性がある。ミッドウェー諸島や小笠原諸島で発見されたことを考えると、ミッドウェー諸島と同程度の緯度の太平洋やインド洋のどこかに餌場がある可能性もある。また、DNA型がケアプベルデヒメミズナギドリに近いことを考えると、ケアプベルデヒメミズナギドリが主に生息するカーボベルデ諸島やバミューダ諸島のような亜熱帯や熱帯気候により適しているという見方もできるし、ケアプベルデヒメミズナギドリに比べて体が小さいことを考えると、亜南極に棲むヒメミズナギドリや北大西洋に棲むバローロ・シアウォーター(英語版)のように、海水温度が低い海域に適応しているという可能性も考えられる。繁殖は日本や他の太平洋上の島で行い、ハワイ諸島には一時的に留まっていたに過ぎない可能性も考えられる。ミッドウェー環礁よりも小笠原諸島においてより多くの個体が発見されたことを踏まえると、主な 生息域は小笠原諸島である可能性もある。小笠原でも巣はまだ確認されていないが、小笠原の無人島でこの鳥が見つかった場所は低木林や丈の高い草の下で多数の海鳥が繁殖している場所で、同様の環境で繁殖している可能性がある。
保全状態
現在のところオガサワラヒメミズナギドリに関する情報は乏しい。ミッドウェー諸島周辺では海鳥調査が大々的に行われてきたため、この海域周辺に大規模なオガサワラヒメミズナギドリの個体群があれば1990年代以前にもミッドウェー諸島で発見されていたはずである。よってミッドウェー諸島の個体が新種であることが発見された当時は、既に絶滅している可能性も考えられた。小笠原諸島で発見されたことにより森林総合研究所はオガサワラヒメミズナギドリが2012年現在生存しているとしたが、依然として個体数は極めて少ない状況であるという。種の保存のためには主な餌場をできるだけ早く発見し、ネズミなどのような外来の哺乳類から餌場や巣を保護することが必要である 。小笠原で発見された死骸の内の3個体は、外来種であるクマネズミによって捕食されたものであった。新種であることを発見したパイル、ウェルチ、フライシャーの3人はミッドウェー諸島の標本が新種であることを発見したことを発表した論文の中で、90年代以降から当時まで目撃例がなかったことに鑑み、オガサワラヒメミズナギドリを絶滅危惧種に指定すべきであると主張していたが、小笠原に生存していることを発表した森林総合研究所もまた、生存確認の発表と共にレッドリストへの登録と積極的保護対策の必要性を主張した。2012年8月には日本の環境省がオガサワラヒメミズナギドリを絶滅危惧IA類に指定した。
参考文献
#出典における略記を太字で示した。
絶滅したと思われていた海鳥「ブライアンズ・シアウォーター」が、小笠原で60年ぶりに発見されたと報道されていました。和名は「オガサワラヒメミズナギドリ」だそうです。 カタカナだと覚えにくいので、「小笠原姫 水凪ぎ 鳥」といったように漢字にし
2012-02-11 00:57:00
Button [ 1 RT ] 小笠原諸島で再発見された希少な海鳥。昨年、標本調査で新種と判明し、森林総合研究所などが和名を「オガサワラヒメミズナギドリ」と提案すると発表した(画像あり) 【希少海鳥、小笠原で再発見(時事通信)】 headlines.yahoo.co.jp
2012-02-09 01:24:00
DNA鑑定の結果、10年以上目撃例がなく絶滅が濃厚とされていた鳥であることが判明したそうです。 今回の発見に伴い、和名を「オガサワラヒメミズナギドリ」とする案も浮上(英名は:Bryan's shearwater)。 環境省も絶滅危惧種であるレッドリストに指定
2012-02-08 00:00:00